8月22日(水) ラジオで第89回全国高等学校野球選手権決勝戦の実況を聞いていた。ともに初優勝を懸けた闘い。先制に加え、7回に追撃点を入れて完全に試合のペースを握っていた広陵高校。相手チームの佐賀北高校を1安打に抑えて、このまま試合は進むと思われたが、勝負は下駄を履いてもわからない。佐賀北が8回裏に5点を入れて逆転。それも、押し出し四球のあとに逆転満塁ホームラン。これ以上ない劇的な幕切れだった。
そんなドラマチックな展開以上にラジオを通じて伝わってきたのが、8回裏のスタジアムの異様なムード。あれは阪神タイガースでの応援団でも出せないもの。ランナーが1人出るたびに、スタジアム全体が「何かが起こる」という空気に変わっていった。観客がドラマを演出したといってもいいだろう。
「野球は筋書きのないドラマ」といわれるが、あのイニングだけは、「決勝戦がこのまま一方的な的な展開で終わっては面白くない」と思った観客の気持ちが一体になり、劇的なシナリオを書いていったのだろう。
そういえば“金狼”上田馬之助はこう言った。
「野球は筋書きがないと言うけど、筋書きはあるんだよ。それは監督や選手、見ている人の頭の中に描かれるんだ。『ここでこうなれば面白い』って。その通りにいくとは限らないだけで」
まさにあの8回裏は、頭の中にある筋書き通りに事が運んだ。
球史に残る決勝戦。今後も語り継がれていくことだろう。
そのドラマとなった阪神甲子園球場は、今シーズン終了後に本格的な改修工事に入る。従来の甲子園球場では最後の高校野球決勝戦。そういえば甲子園球場はもともと高校野球のために建設されたスタジアム。最後の舞台にふさわしい、いやそれを上回る幕切れだった。